敦亀通信

賤ヶ岳

更新日:2020/03/02

 

市中ではコロナウイルスが蔓延し晴れの土曜日というのに外出する人が少ない。

友と一緒に賤ヶ岳を目指した。いつもなら余呉湖北部の大岩山登山口から稜線を南へとるのであるが今日は旧国民宿舎跡から最短コースで頂上へ向かった。国民宿舎の駐車場に車を止めさせてもらう。数年前に営業を終了した建物は廃墟に近い状況である。以前は快適な入浴施設を備え多くの宿泊者を受け入れていただけに残念である。余呉湖を見渡せる絶景の景色が広がる素晴らしい場所である。何時の日か再開して欲しいが、そのときは新しく建て直しせざるを得ないだろう。建物跡の右手より登山道が続く。登山道に沿って杉の植え込みが延々と続いている。樹齢20~40年といったところであろうか。鹿の食害を防ぐため青いビニールテープが十重二十重に巻いてある。いつも思うことだが、大変な労力を必要としたことであろう。数十年前、杉の苗木を植えた人は恐らく鬼籍に入っていると思われる。登ってくるのも大変な山中で苗を1本1本丁寧に植林したのであろう。今日植えた苗が何時の日か貴重な杉の大木に成長することを楽しみにして厳しい作業に耐えたことであろう。しかし、昨今、杉を多く使った純和風の木造建築が少なくなっている。おまけに東南アジアから安価な洋材が輸入されている。こうした理由であろうか、山を歩くと伐採されるべき杉が多く放置されている。これに加え春先の今頃はスギ花粉が日本列島全体に飛翔しアレルギー体質の人たちからは恨まれるという損な役回りになっている。こういったことを思いながらゆっくり歩いて行くと、いつの間にか頂上へ着いた。頂上は我々2人以外誰もいない。展望台から余呉湖が右手に、正面からは竹生島を浮かべた琵琶湖が見える。この付近は幾多の兵士が血みどろの戦いを繰り広げた古戦場であるが微塵も感じさせない。

唯一つ戦いを偲ばせるモニュメント像があった。戦いを終えて一息つき岩に座り込んだ武将の像である。

重い甲冑をまとい疲れ果てた面持ちで槍を立て思いにふけっている。命が助かったことを安堵しているのだろうか、戦死した同僚のことを思っているのだろうか、それとも終わりなく延々と続く戦を思っているのだろうか、想像はつきない。ふとみると足元に白いものがあった。マスクである。コロナウイルス対策で誰かが持ってきたものであろう。400年のときを超え現実に戻された。