敦亀通信
タートルコミック紹介「虹色のトロッキー」
更新日:2017/07/13
虹色のトロッキー(安彦良和)このコミックについて「知っているか?」と人に聞いても知らない人が多い。安彦良和氏はガンダムの作者として有名であるが、歴史モノも書いている。タイトルの虹色、、と内容は大違いで一大歴史活劇といってもよいだろうか。舞台は太平洋戦争前夜の満州、陸軍中尉であった父とモンゴルの母との間に生まれた混血児ウンボルトが主役で、これに関東軍の石原莞爾や辻正信中佐、男装の麗人といわれた川島良子、人気女優の李香蘭(日本名山口淑子)、等々当時の有名人が数多く登場する歴史活劇と読んでもいいだろう。ウンボルトは合気道の大家、植柴盛平から合気道を習い馬賊生活や抗日運動などを経て満州建国大学の学生となる。この大学は日本政府がモンゴル、朝鮮、中国、満州、日本の各民族の友好協和を目的として設立されたものである。ウンボルトには陸軍の中尉の父と母を何者かに惨殺されているが未だ幼子であった為、わずかな記憶しかない。誰に、どうした理由で両親が殺害されたのかを知りたいと思っているのであるが、誰も教えてくれない。これに当時の日本、満州、モンゴル、ソ連との複雑な政治状況がからみ実際の歴史事実をからめつつストーリーは展開されてゆく。歴史大好き人間である私は1巻から8巻(完結)までむさぼるように読んだ。最後は1939年5月に発生したノモンハン事件(ソ連側ではハルハ河戦争という)が出てくる。モンゴルと満州国との領土境界をめぐって5ヶ月間の戦争で日本軍18,000人ソ連軍もほぼ同数の戦死者を出す本格的な戦争になってしまうのである。ノモンハン戦争という言葉は歴史の教科書で習っていたが、このコミックを契機として関連する多くの書籍を読んだ。ノモンハン戦争が多くの人命を失うという日本にとって貴重な体験であったにも拘らず、当時の軍部は反省がないまま太平洋戦争に突入してしまった。公平公正な責任追及をすることなくこの戦争を終結したことも問題であった。多くの戦死者とそれに倍する戦傷者が砂漠のまんなかで肉弾戦をおこなったのである。一人一人の兵隊さんは何故こんな場所でこのような戦いをしなければならないのか?という素朴な疑問もあっただろう。犠牲者の皆様に衷心よりご冥福をお祈りすると共にこのような悲劇の上に今、私達が歴史を引き継ぎ現代に生きているということを忘れてはいけないだろう。日頃、生活や仕事において辛い苦しいと感ずることは多い。ノモンハン戦争においてソ連の戦車に爆弾を抱えて体当たりせざるを得なかった恐怖感、砂漠に塹壕を掘りソ連兵との肉弾戦を余儀なくされた緊迫感等々を考えるとまだまだ恵まれている。あれから70年以上経過した。社会も経済も変わってしまい当時の面影はない。しかし国境紛争や民族の争いなど歴史の本質的な部分は全く同じであり本質を見失ってはならない。